百舌谷さん逆上する(5) (アフタヌーンKC)
篠房 六郎
講談社 (2010-09-22)

「百舌谷さん逆上する」の5巻が発売されました。よくある属性としてのツンデレではなく、病気としてのツンデレを描いた傑作でネタとテンポが素晴らしいの一言。特に5巻ではギャグのキレが抜群で、吹き出す恐れあり!

オビには「ツンデレVS委員長」と綴られており、百舌谷さん対五島さんが対決…するというわけです。五島さんが百舌谷さんへ行動を移す…ついに山が動いたのです。クラスメイトを集めVS百舌谷さんに向けて作戦会議をしているようで、斜めの方向に突っ走るのも一興。もうイジメかっこ悪いとか言ってられません。そして、五島さんが取る行動とは…。

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五島さん
「逆にあの子に対して、どんどん優しくして親切にしてやるのよ。そうすれば、人の心の温かさに慣れてないあの子は戸惑い混乱し、やがて無様に自滅しちゃうに違いないわ」

ドキッ☆百舌谷さんに親切にお友達になろう大作戦。とりあえず百舌谷さんの弱点を探そうと樺島に聞こうものなら、悪巧みをしようと思うともじもじしてしまい、それは恋する乙女のような行動でした。しかし、それが逆に百舌谷さんに効いてしまいました。それは転んだ拍子に改心の一撃を繰り出す役立たずトルネコのようにマグレの一撃。現場をたまたま目撃した百舌谷さんは大混乱です。

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魔性の女・五島さん

効いてる…効いてるよ!
百舌谷さんは何気にダメージを食らっていました。しかし、樺島にモジモジしながら弱点を探ろうとしたり、保健室で竜田の良いところを述べて庇う姿といい…五島さんはオデコ可愛い!(←結論)

でも、5巻は見所満載ですね。五島さんだけでなく、樺島といい、竜田といい、モブだった女子生徒もキャラが立ってきて良い感じです。さらに百舌谷さんの実家の事情も垣間見れて目が離せません。しかも祖父も、中々のツンデレのような気配。

で、「百舌谷さん逆上する」5巻ラストでは、久々に樺島がナレーションを担当していました。というのも、単行本では3巻あたりからは特に物語のナレーションはなく、出来事を淡々と描かれていました。しかし、思い返すと初期は樺島のナレーションで物語を綴っていました。

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樺島が物語を語る

初期はほぼ毎回、樺島がナレーションをしながら物語が語られていました。例えば、第一話では樺島が学校に来ていないのに、樺島の視点でナレーション。

僕が彼女と初めて出会ったのは、彼女が転校して来てから1週間後の事でした

その場にいないのに樺島の視点でナレーション。初めて百舌谷さんと出会えば、「―それが、僕と彼女の初めての出会い―だったわけで」とナレーションされると共に、百舌谷さんにボッコボコにされて血まみれになる樺島。その後も、樺島がナレーターを担当。

そして5巻では、百舌谷さんや五島さんや韮沢合歓などの視点でナレーションをし始め、まるで群像劇のような構成になっています。そして樺島の視点でのナレーションと他のキャラの視点でのナレーションには、明確な違いがあるのです。

例えば、五島さんの視点で物語がナレーションされた時…。

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五島が物語を語る
問題は、百舌谷さんのために他の人が色々、気を回して特別扱いしているのに、本人がそれを当たり前のようにして、何も気にかけていない事だと思います

ナレーションは現在の五島さんの心情を吐露する形で綴られています。百舌谷さんの靴がクラスメイトに汚されているのを目撃したら、「それにこれをいい機会に百舌谷さんに想い知ってもらうのも、いい事なんじゃないでしょうか」とナレーターするなど現在の出来事をナレーション。

他にも、韮沢合歓の視点でナレーションがされれば…。

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韮沢が物語を語る

韮沢さんの視点で物語が語られる時は、「でも、私は信じてます。ちーちゃんは本当はすごくいい子だって」とか悪巧みを見て「さあ、止めなきゃ」と、こちらも現在の韮沢の心情などでナレーションされています。

そして、樺島の視点で語られるナレーションだけは明らかに他のキャラの視点のナレーションと異なっているのです。1話の1コマ目から本人がいなくてもナレーションをしていた樺島。他のキャラが今の出来事を語るのとは違い、樺島の視点はもっと未来から過去を振り返るように語られているのです。

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樺島が物語を語る

樺島の視点でナレーションをする時、未来からの視点において過去形で昔を振り返るような口調で物語は語られています。初期の「百舌谷さん逆上する」は、樺島がまるで過去を振り返るようなナレーションでストーリーが進められていたのです。

5巻では、百舌谷さんに金属バットで撲殺されそうになる樺島。その時、久々に樺島視点でのナレーションがされるのですが…。

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久々に樺島の視点で物語が語られる
そして、百舌谷さんがどうしてああも変わってしまい、あんな事を始めたのか。僕がその全てを知るのは、もっと―。ずっと後になってからに事だった。

樺島は、どう見ても未来から過去を見た視点でナレーションをしています。これが一体何時の樺島なのかは分かりませんが、「百舌谷さん逆上する」は樺島の過去を振り返るようなナレーションから、今までの話が樺島の過去を振り返る構成となっている感じ。FF10のように、現在に繋がるのか、終わってしまった話を振り返っているのか。何にしても、樺島のはあなどれないキャラです。