「ハチミツとクローバー」「3月のライオン」の羽海野チカ先生の初短編集「スピカ」。収録されているのは「冬のキリン」「スピカ」「ミドリの仔犬」「はなのゆりかご」「夕陽キャンディー」「イノセンスを待ちながら」の6編。

個人的にグッときたのは表題作となっている「スピカ」。
野球部の少年と、バレエに打ち込む少女の交流を描いた青春もの。これが実に素晴らしく、この2人が「3月のライオン」の高橋くんとひなちゃんに似ているというか通じるというか。というのも後書きで羽海野先生自身が以下のようにコメントしていました。

今思うと、ライオンのひなちゃんと高橋くんは、ここから来たのかな、と。

ストーリーと言えば、バレエに打ち込む少女が親に「そろそろバレエはお休みにしたら?大学のおうが大事よ」とか「バレエで食べていける人なんて何千人にひとりもいない」と散々言われてしまい落ち込むも、野球少年に励まされ頑張るという話。

とにかく、台詞が胸を打つ。
特にヒロイン・美園がコンクールでいい成績取らなきゃと思うも、弱音を見せた時の台詞が胸熱すぎる。

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美園

なにかを好きになるって、そんなに悪いことなのかなあ。笑われるほど?

そして「泣いてもやめられないほど好きなものがあるってのはさ、きっとすごいことなんだぜ」と励ます少年。鳥肌が立ちますよね。感情が揺さぶられるというか。

そして思い浮かべるのは、「3月のライオン」のひなちゃんと高橋くんだけでなく、名人戦で「『抜けない事があきらか』だからって、オレが『努力しなくていい』って事にはならない」と巨大な壁に果敢に挑んで散った島田八段。
関連、「3月のライオン」が超面白い件

弱くても勝てなくても無理でも、それでも、と。ひたむきに諦めずに戦い、進む姿。どうやら、僕は羽海野チカ先生の描く「弱者が諦めずに邁進する」というものが大好物だったようで、感情を激しく揺さぶられるんだってばよ!

3月のライオン 6 (ジェッツコミックス)
羽海野チカ
白泉社 (2011-07-22)

戦いの第6巻
なんだこの面白さは。脳からおかしな汁が飛び出てきました。脳汁出まくるし、震えるし、鳥肌立つし。圧倒的に面白いじゃないですか。帯のとおり「戦い」。

ぶっ倒れるまで指した二階堂。
またいちいち台詞回しが凄い。二階堂の棋譜を見た零は以下のような感想を述べてました。

「迷い」「ためらい」「ひるみながら」も
それでも「自分の今まで」を信じて
「憧れの地」目指して火の玉みたいに突き進む…
まるで一篇の冒険小説のようだった

61話「冒険者たち」というサブタイトル通り、冒険者という言葉が本当にシックリきますね。成功するかどうか成否が確かでないことを、あえてやる冒険者。個人的に「3月のライオン」は、成否が定かでなくても「挑戦する」「逃げない」キャラがクソ熱い事に尽きますよ。

学校で「いじめ」を食らっているひなちゃんは、逃げなかった。
修学旅行に無理して行かなくてもいいとあかりさんに言われても「行く」と断言したひなちゃん。

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逃げない

「行かなきゃダメな気がする…。でないと、この先ずっと何年も大人になってからも後悔しそうな気がする…」

ひなちゃんは本当に強いな。
絶対に逃げない。対してキングオブ逃げリストの零
本当の家族が他界したという事実から「泣いても仕方ないから諦めて」「悲しいから考えないようにして頭から追い出して」と逃げた零、幸田家から逃げだした零、凄い逃げっぷりでした。

メタルスライム、はぐれメタル、メタルキング、そして桐山零こそが逃げの代名詞ですよね。そして何故か逃げ出しまくりな人生のくせにプロになって1年遅れで高校に行った理由を高橋くんに以下のように言ってました。

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高校に行った理由

零「僕は本当に将棋しか特化すてないんです。人付き合いも苦手だし、勉強は好きだけど学校には馴染めませんでした。人生を早く決めた事は後悔していません…。でも多分、『逃げなかった』って記憶が欲しかったんだと思います」

高橋くんは理解してくれました。ピンチの時に監督に「自分を信じろ」って言われけどサボったり、逃げたりしたらそれが出来ない、と。

逃げない=自分を信じる

高校に通う理由を「逃げなかった」という記憶が欲しかったと言ってました。散々逃げまくったチキンの分際で何を抜かすのでしょうか、この男は。一に逃げ、二に逃げだったくせに。そんな逃げばかりの零が二階堂との対局で千日手に逃げた山崎順慶に対して…。

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「自分の問題(読みの弱さ)を克服せずに、他人に背負わせる事を『正しい』と言うのなら、僕の答えは―ただ一つ。ふざけるな

逃げるのNG(ふしだらNG風に)
6巻にして零は完全に覚醒したというか成長していますね。将棋に対して「勝つ理由が無い」とか抜かすも負けると何故か苦しいという中途半端全開だったのに、初めて勝ちたいと強く思うようになるのです。

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勝つ

「そして何より今は彼女(ひなちゃん)の為に…!」(54話)
「力になりたいそれなのにどうやっらた力になれるのかが解らない。だけど、これよりほかに出来る事を持ってない。だから、勝ちたい。勝ちたい。―勝ちたい。どこか一つだけでも強い存在でありたい。―そうだ僕は必要とされたい」(58話)

初めて勝ちたいと強く思い、それをひなちゃんに口に出して「絶対勝ってくるから」と告げた零のかっこよさは半端じゃありません。「居場所」がないとかずーっと思ってた零が必要とされたいと思い戦おうとするのです。勝つ理由が出来ました。初めて欲が出ました。「それは純粋な欲じゃない…」と、良い事か悪い事か解りません。でも林田先生に背中を押して貰いました。

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背中押された

「必要とされたい」「だから強くなりたい」
それのどこが不純なんだ?と

自分を信じる。逃げない。
今まで自分で何がしたいのか謎だった零が明確に目標を持って戦う。熱いっすなー。合ってるか分からないけど、勝てるか解らないけど、正解かも分からないけど、それでも自分を信じて突き進むっちゅーの。迷い、ためらい、ひるむも自分信じる零がニートから冒険者になったんだってばよ!そりゃ、死んだ魚のような目に火が付くってものですよ。

でもキモはひなちゃん
ひなちゃんの逃げずに戦う姿勢も熱いけど、泣き顔ですよね。「スピカ」の美園にしても、ひなちゃんにしても羽海野先生の描く女の子の泣き顔の可愛さは半端じゃありません。

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ひなちゃん

ブヒィィィィィ!

ひなちゃんにはいじめとか戦う姿勢とか胸が張り裂けそうになるけど、泣き顔が可愛すぎて劣情を抱く(結論)


3月のライオン 6 (ジェッツコミックス)
羽海野チカ
白泉社 (2011-07-22)

3月のライオン 5 (ジェッツコミックス)
羽海野 チカ
白泉社 (2010-11-26)

3月のライオン 4 (ジェッツコミックス)
羽海野 チカ
白泉社 (2010-04-09)