同窓生代行─売野機子作品集・2─ 薔薇だって書けるよ―売野機子作品集

売野機子先生が楽園で連載している短編集。先日、第2弾として「同窓生代行」が発売されました。ぶっちゃけ、80年代の臭いがプンプンするんですよね。よく言えばノスタルジーに浸れる。悪く言えば古臭い。懐かしいというか。多分「花の24年組」の雰囲気に似ているせいでしょうか。

で、「薔薇だって書けるよ」でもちょろっと紹介しましたけど、個人的に大好きなわけですよ。8本の短編集からなっており、作者も後書きで述べるように少女漫画から百合からホモまでカオスで盛り沢山。重厚であり読み応えは抜群。特に表題作「同窓生代行」「ラストサーカス」「愛のけものにしたがいなさい」の3本がグッときました。

売野先生のキャラは無機質というか機械的というか、無表情のようなキャラが特徴的でもあります。それが生気を帯びるというか、生き生きとするというか、魂が宿る感じが僕の心の琴線を刺激するわけです。

表題作の「同窓生代行」は、売れないモデル・リカが、全身整形の売れっ子アイドル・庭野野ばらの中学校の時の同窓会に代わりに参加するという話。顔の変わった庭野野ばらの替え玉として。庭野野ばらは中学時代は、誰とも話した事がない、誰にも見られてなかった…なので変わりに参加しても誰にもバレない、と。

で、「同窓生代行」の主人公・リカは冒頭から付き合ってた彼氏と別れてしまい終始、生気がないというか野ばら同様に無表情でした。淡々と替え玉を行う中で、彼女が生気が戻ったというか必至になるのです。

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必至になったリカ

この娘、最初は「いつか終わるのが怖くて」と述べるようにBADEND至上主義者。絵本などの物語を読む時も「可哀相な話ならもっと悲惨になるのではないか」「しあわせが続くと悲しい結末が待っているのでは」と思う超ネガティブ主義者。だから、先に結末を読んで、悲しい物語だと分かって読む物語は安心して読めるというほど。

そんな彼女が、他人のハッピーエンドに向かって突如やる気を出して必至になったのはグッとくるってもの。野ばらのストーリーがハッピーエンドになる事はありませんでしたけど、他人のストーリーに紛れ込む事によって自分の中の信実に辿り着くのでした。

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気付く

あたし、ハッピーエンドが好き

超ネガティブ主義者だったリカがハッピーエンドが好きである、と気づくのでした。そして自分のストーリーでのハッピーエンドに向けて動き出す様が胸熱すぎるってもの。

売野機子作品短編集2、色々とカオスな感じで様々な話がごった煮状態ですけど、「他人のストーリーに触れる」それによって「止まってた自分のストーリーが動きだす」というのが一つのテーマであるように思えます。

「ラストサーカス」では、隣に住む年上のお姉さんマノちゃんと、マノちゃんのクラスメイトの男子千里くんのストーリーに振れる子供ハルちゃんの物語。千里くんのストーリーに触れる事によって、ハルくんのストーリーは動き出すのである。

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ハルくん動き出す

マナちゃんのクラスメイトのストーリーに触れる事によって、無機質だったハルくんは自分のエピソード&ストーリーを動かすようになるのです。

この短編集はショートの話以外は、全て他人の人生やストーリーに第三者が触れる事によって、止まっていた&無かった自分の人生やストーリーが動くという構成のエピソードになっています。

彼ら&彼女達は、止まっていた無機質なストーリーの針を他人のストーリーに触れる事によって、自分の時計の針を動き出させるのである。「パラダイス前夜」ではそれが集約されたようなシーンもあり、色々と哲学的に考えさせてくれます。

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ラダイス前夜

ふたたび、わたしたちのSTORYが交わる時
それぞれが、幸せであったらいいのに

この話は、つきあってる彼氏の言動に不満を感じた彼女が実家に帰ってみれば、実家の田舎の面々のストーリーに振れ、自分だけでなくみんな変わったと感じ、結局「自分のSTORY」を動かすことに。

他人に触れる事で自分のストーリーに影響を与えて、動き出すという。なんとも哲学的で、読後に不思議なフワフワした感じになります。そして色々と考えさせてくれます。売野機子短編集、色々と単純なストレートのようで哲学的でもあり、心理を突いてるようにも感じます。お勧め。



ロンリープラネット (KCデラックス)
売野 機子
講談社 (2011-11-30)