ピアノの森(26)<完> (モーニング KC)

―ずっと夢見てたんだ
私は夢にも思わなかったよ


『ピアノの森』26巻が発売されました。
これにて完結なり。18年間か…。ヤンマガアッパーズの漫画もこれで全て終わりですかね。いや『魔女っ子つくね』がまだやってるのかな?なんにしても感無量である。

26巻の表紙は一ノ瀬海と阿字野壮介の2人。なるほどなー。最初は天才と秀才のライバル物語かと思ったものですけど。『ピアノの森』はカイの成長物語であると同時に阿字野の復活物語でもありました。生涯のライバルは阿字野壮介だったか!最終巻のメインは阿字野の復活物語なり。

タイトルでもあるピアノの森というのは、元々は阿字野が手放した特別仕様のピアノ。事故後に全ての物事に対して無気力だった阿字野は、森に不法投棄されているピアノを自分と重ね合わせて失笑するなどドン底でした。しかし、そのピアノを弾いて育ったカイと出会ったのが全ての始まり。2人のスタートです。始まりの曲は「茶色の小瓶」なり。音楽室でカイが聴き惚れて間違いを指摘しされた曲、森ではじめて聴いたカイの曲。「一緒にピアノをやらないか」である。

8
茶色の小瓶

ガラコンサートのアンコールでカイが「茶色の小瓶」を演奏し出すわけです。もうね、これだけで涙腺をクリティカルヒットですよ。ピアノの森で繋いだ2人の原点の曲ですからね。さらに、この曲に乗っけたカイの気持ちを考えるとね。そりゃ泣くよ。胸も目頭も熱いよ!

(以下、核心的なネタバレ有ります)

んで、キーワードは「腹をくくること」「生きる意味」の2つかな。
最終巻(240話と最終話)で阿字野が自問自答するわけですけど、この2つのワードって過去でも使ってるよね。思い返せば、カイが阿字野を尊敬し師事するようになれば、阿字野も腹をくくったものでした。自分が死なずに生き延びた意味を見出すわけです。それはカイを輝く世界に送り出すためです。「腹をくくらなければならないのは私の方かもしれない」「こいつ(カイ)を輝く世界に送り出すために生き残ったのかもしれない」(58話)とね。

それを踏襲しているような最終巻の阿字野。

9
阿字野

私は何を恐れているのだろう?
私は…どうして腹がくくれないのだろう?

うむ。以前にカイを育て上げる事を決心して腹をくくった阿字野ですけど、今度は腹をくくれないのであった。それもまたまたカイのお陰で腹をくくれた。ヘタな現実と向き合う勇気。最初の一歩を踏み出す。「ヘタでいいじゃん」「だってヘタに決まってる!!」とか最終回の回想が超良かった。

阿字野はカイのお陰で第二の生きる意味を見出した。
それが終わったら…
今度は第三の生きる意味を見出す!
その紆余曲折は凄く胸に染みましたね。
回答のような最終回のカムバックリサイタルである。

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生きる意味

このときを…私は待っていた。どのような結果になろうと…私は恐れない。このプログラムがどれほど危険なのかも知っている。でも私はこれらの曲で今日…この世界に戻る!それが…カイのピアノと出会い…第2の命を授けてもらった今の私の…生きる意味だからだ。

盛り上がりに盛り上がりる。
阿字野のカムバック・リサイタルスゴイね。
万感の想いです。控えめに言って最高でしたね

今までのキャラの想いが阿字野の演奏に乗っかってグッとくるというもの。感無量ですよ。ラストのカイも加えてジャン指揮の演奏。2人の「ずっと夢見てたんだ」「私は夢にも思わなかったよ」と180度違う想いが交差するシーンは鳥肌が立つし、目頭が熱くなる大感動シーンです。最終回、もうね胸が熱くなりまくりでしたよ。最高と断じるに些かの躊躇もないわ!

キモは最終回の扉絵なり。
カイと阿字野が嬉しそうに抱き合っている扉絵です。

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最終回の扉絵

扉絵だけで泣けるね。この2人っていつの時だろうか?
カイと阿字野がカムバック・リサイタルの後で抱き合ったのだろうか?
否である!着てるスーツが違う。阿字野のスーツの色…よく見るとショパンコンクールの時のやつじゃん!この意味分かりますか?(高田延彦風に)

ショパンコンクールで抱き合うといえば、カイが最年少優勝者となり雨宮が浮かれまくって手当たり次第にハグしまくりました。「喜びの共有」ですよ!んで、当事者のカイは優勝した時に最も喜びを共有したかった相手と抱き合うことができませんでした。ハグしたい相手はモチのロンで阿字野です。阿字野と泣いて喜んで抱き合いたかっただろうに出来なかったわけです。

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本当は抱き合いたかった

―俺はこの現実を阿字野と分かち合えないまま…山ほどのインタビューとフラッシュと“おめでとう”の中にいた。阿字野!阿字野はどこ?阿字野は…というと…。更に大勢に囲まれて…苦戦してるようで…。阿字野、阿字野大丈夫?

カイも阿字野もマスコミに囲まれた身動きが取れなかったのでした。カイは阿字野をキョロキョロ探し、本当は雨宮のように喜びを爆発させてハグしたかっただろうに。当事者なのに…。そう、最終回の扉絵は現実には無かったシーンなのである

カイと阿字野による喜びを共有しての抱き合い
あの時出来なかった事をね、最終回の扉絵で描かれているわけ。扉絵は最終回の内容を見事に表現してたと思うね。最終回は2人の喜びの共有する内容でもあったわけです。最後にカイと阿字野がピアノ越しに向き合ったシーン。

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―ずっと夢見てたんだ
私は夢にも思わなかったよ

2人の想いが交差する中で扉絵同様にね…。
ショパンコンクールの時に出来なかった喜びを共有して抱き合っているようにすら見えるね。実際に2人はハグ出来なかったけど、時を超えてね、最後に2人は抱き合ってると思うね。ハグしてハグしてハグをした。この現実を阿字野と分かち合えたんですよ。素晴らしい物語でした。まる。

※追記
コメント欄で指摘されました。

>”最終回の扉絵は現実には無かったシーン”
>感想の考察も良かったですが、カイがマズルカ賞など
>3連発とった25巻でありましたよ

「おとなはウソつきだ」と思った少年少女のみなさんどうもすみませんでした。 おとなはウソつきではないのです。 まちがいをするだけなのです…。


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