コミック星新一宇宙からの客

「コミック星新一 宇宙からの客」が発売されました。
秋田書店が2003年から出してる星新一先生のショートショートのコミカライズです。えっと、これが第4弾目になるのかな。はっきり言って、このシリーズ超面白いです。むしろ星新一作品を知らない方が楽しめるって感じ。で、ネットではこの「コミック星新一」シリーズの感想が溢れてるんですけどあまり良い評価を受けていない。アマゾンの批評とかもう見てらんない。おそらく、元々の星新一ファンから見たらそういう評価になるんでしょうかね。よく分かんないけど。

で、今回の「コミック星新一 宇宙からの客」。
めちゃ良かったです。どれもこれも引き込まれる作品ばかりで一気に読んでしまいましたよ。収録されてるのは「包み」(手代木史織)、「半人前」(比古地朔弥)、「帰郷」(釣巻和)、「宇宙からの客」(押見修造)、「調査」(青木朋)、「逃走の道」(岩岡ヒサエ)、「美の神」(今村陽子)、「信念」(アサダニッキ)、「地球から来た男」(須藤真澄)の9本である。

「包み」手代木史織

「包み」がもう最高である。個人的に「コミック星新一 宇宙からの客」の中で一番面白かったです。ストーリーのほうは才能無い売れない画家が田舎に引き込み、自分の絵の道に諦めの心境になったところへ、一人の青年がやってくる。青年は「この包みを預かっておいて頂けないでしょうか」と一つの包みを売れない画家に預ける。この包みの中身を想像して絵を描けばあら不思議。今まで描いた事もない絵が次々と描けて、それがどれも爆発的に売れるようになってしまう…というもの。

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「包み」の中身を想像して絵を描く

特に手代木先生の表現が素晴らしいのなんの。
おっさんを描くのがクソ上手い

この「包み」は、三十数ページなんですけどもう本当に面白い。無駄なコマが1つもないっつーぐらいの濃さ。なんと言っても売れない画家が最初に包みを気にして無意識で絵に思いの丈をキャンパスにぶつけるのは画家の脳内描かれる絵のシンクロ率が半端ないのである。

特に、包みの中を想像すると同時に絵を描いていく様子が鬼気迫る様子から淡々と描く様子まで流れが芸術的といってもいい。というか、イマジネーション、「包み」の中を考え色々と想像するシーン。これは漫画ならではじゃないかな、かな。

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画家の脳内&キャンパス

お見事!
どんどん想像力溢れるシーンとキャンパスにそのイマジネーションをぶつける様子が素晴らしいのなんの。脳内とキャンパスのシンクロ率っていうのかな。好奇心を自身の想像力に転換させるシーンがある意味カタルシスすら感じさせてくれます。最後のオチまで何度も読み返してしまうほどの良さです。

「宇宙からの客」押見修造

星新一先生のショートショートの魅力つったら最後の一文に「はっ」とさせられる切れ味であると私は思うのですけど、この押見版「宇宙からの客」は漫画でどう表現するかと思ったら、見事に最後のオチですね。てかこれ原作じゃ3ページしかない超短編ですしね。それを20ページに膨らませて見事にオチにもっていく。素晴らしいです。

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宇宙からの客

原作じゃ「宇宙人」の三文字でしか書かれていませんけど、漫画ならこうして絵がついて全然違った印象になりますよね。可愛い女の風の宇宙人で。しかし、押見先生といえば、人間の内面のどす黒さを描くのが魅力なので、「宇宙から客」のようなコメディより、もっとブラックな作品をチョイスして欲しかったと思うのは贅沢かなぁ?なんにしても漫画版「宇宙からの客」も十分楽しめました。

「逃走の道」岩岡ヒサエ

ゾクゾクくるよね。「土星マンション」の岩岡ヒサエ先生の可愛らしい絵柄で「逃走の道」というゾクゾクする恐怖感満載のコミカライズ。これ、至高なり。2人の泥棒が列車に逃げ込んだら、乗客は微動だにせず、人間でなく人形だったというシーンがじわじわと背筋凍るぐらいゾクリとさせてくれます。

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ゾクゾクゾクゾク

この恐怖感よ。
可愛らしい絵柄で恐怖と緊迫感の連続。そのギャップが最高に私の心の琴線に触れてきます。その物語を転がすスピード感がなかなかどうして。また、この「逃走の道」は様々なメディアで映像化されてる有名作品なんだけど、この漫画はラストを真っ黒で描くのが実に良いっすね。

「信念」アサダニッキ

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信念

善良であっては大した人生は歩めない。そういう信念を持つ男は、会社の集金係に配属され、いつか金を持ち逃げしてやろうと企む。その為にもっと大金を集金できるぐらいの信用を得ようとして、金を持ち逃げする信念通りに過ごせば、あら不思議。絶大な信用を勝ち取って出世していくというお話。

というかアサダ先生せっかく可愛い女の子描けるのに「信念」では、全然女の子出てこない。だから、会社のモブOLや最後のリポーターが暗闇の中の一縷の光のようなありがたみがありました(感想?)。

この「信念」。凄く共感できます。共感できますよ!私もブログをやって、記事毎にどれくらい反応あるか気になるような管理人ですしね。気合入れて書いたエントリーが無反応で、時間なくてネタ記事適当に上げた時のほうが反応あった時のアレね(全然違う)。

「地球から来た男」須藤真澄

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地球から来た男

個人的には、「包み」と並び素晴らしい仕上がりとなっています。

「地球から来た男」というのは産業スパイとして潜り込んだ会社で捕まり、そこでテレポーション装置で地球外へ飛ばされてしまう。で、男は気付くとある惑星にテレポートしていた。しかし、見れば見るほど、地球と瓜二つである。この星の名も「地球」というらしい…。

一見すると、テレポーション装置なんて嘘なので同じ環境で同じ名前の違う地球という星に飛ばされたバカな男の笑い話なんだけど、この思い込みについては色々と考えさせてくれます。それをバカバカしさだけでなく、哀愁漂う仕上がりにした須藤先生に感服です。素晴らしいです。

全体的にどの話も読み応えありました。
特に星新一作品なんて全然読んだことないって人にこそ薦めたいものであります。もちろん、好きな漫画家が描いてたら、新しい一面発見できて良いのではないでしょうか。




コミック☆星新一午後の恐竜
星 新一 志村 貴子 小田 ひで次
秋田書店